長野と新潟の県境を縦走する「信越トレイル」は、北アルプスのような派手な絶景こそないものの、日本の原風景とも言えるブナの森と静かな里山の道が続くロングトレイルです。
2025年10月中旬、私はこの信越トレイルをテント泊で5日間かけてスルーハイクしました。雨に悩まされながらも、歩くほどに深まっていく秋の森の様子と、静かなトレイルの魅力に心を奪われました。
この記事では、実際に歩いて感じた「歩き方・宿泊・水場・アクセス・注意点」などを、体験を交えながら詳しく紹介します。
信越トレイルとは?
信越トレイルは、長野県と新潟県の県境に連なる全長約110kmのロングトレイルです。西の斑尾山から東の苗場山まで、関田山脈と苗場山麓を貫き、豊かな自然と里山の暮らしをつないでます。

このトレイルの魅力は、ブナの森や集落を歩きながら、地域の自然と文化に触れられること。山歩きというより、ゆったりと「人と自然の間」をたどる旅のようです。
また、NPO法人「信越トレイルクラブ」を中心に官民・ボランティアが連携し、整備・維持を行っています。多様性と環境保全を大切にした、国内でも先進的なトレイルとして知られています。
信越トレイルの歩き方
スルーハイクとセクションハイク
全線スルーハイクする場合、8泊9日が標準的な日程です。
ただ、すべてを一度に歩く必要はなく、日程や体力に合わせて区間ごとのセクションハイクも可能です。
モデルコースは公式サイトに掲載されています。
ルートの向き:East Bound / West Bound
東端の斑尾山から西端の苗場山へ歩く「East Bound(EB)」、その逆が「West Bound(WB)」。
一般的には斑尾山から苗場山へ向かうEBの方が人気がありますが、私のようにWBルートで歩く人もいます。
宿泊スタイル
信越トレイルでは「テント泊」「民宿」「山小屋(苗場山ヒュッテ)」が主な宿泊手段です。
全区間を歩く場合、テント泊はほぼ必須になります。ただし、行動時間が長くなりがちなため、一部区間で民宿を組み合わせるのもおすすめです。
信越トレイルの宿泊情報についてはこちら。
テントサイト予約の注意点
信越トレイルのテントサイトは信越トレイルクラブのホームページもしくはそれぞれのテントサイト管理元へ事前予約が必要で、電話もしくはネットで予約可能です。
テントサイト一覧はこちら。
利用期間と閉鎖時期
テントサイトはそれぞれ営業期間が異なり、冬季は閉鎖されます。私が歩いた10月中旬は「光ヶ原高原キャンプ場」がすでに閉鎖されており、計画を変更することになりました。
また「かたくりの宿テントサイト」は休館日のため温泉が使えず、結局利用を断念。季節や営業日によって利用できない場合があるため、事前確認は必須です。
サイトごとに個別予約が必要
信越トレイルのテントサイトは、ひとつずつ個別に予約・支払いを行わなければなりません。
日程変更があった場合も、キャンセルして再予約する必要があります。そのため、ある程度スケジュールを確定してから予約するのが安全です。
水場と装備のポイント
水場は限られている
信越トレイル上の水場は限られており、計画的な確保が必要です。
場所は公式サイトに記載されています。
浄水器は必須装備
多くの水場は沢水のため、そのまま飲むのは危険。浄水または煮沸が必要です。
私は「ソーヤーミニ」を使用しましたが、軽量・コンパクトで非常に便利でした。
クーラーボックスの水がありがたい
トレイル上のいくつかの地点には、信越トレイルクラブが設置したクーラーボックスがあり、ペットボトルの水が用意されていました。
枯れた水場の代替として置かれており、その心遣いに何度も救われました。
アクセス情報
斑尾高原(長野県側)
東端の斑尾高原へは、JR飯山駅からバスでアクセスできます。
観光協会の公式サイトで時刻表と路線情報を確認しておきましょう。
苗場山(新潟県側)
西端の苗場山には、秡川登山口からのルートが一般的です。
公共交通の場合、JR越後湯沢駅からバスで「八木沢口」または「道の駅みつまた」へ行き、そこから徒歩約2時間(約10km)で登山口へ。タクシー利用も選択肢です。
実際に5日で歩いたレポート
計画と概要
信越トレイル4泊5日(West Bound)
1日目:道の駅みつまた→苗場山→小赤沢楽養館テントサイト(24.6km)
2日目:小赤沢→JR森ノ宮駅→野々海高原テントサイト(35.1km)
3日目:野々海高原→関田峠→桂池テントサイト(27.4km)
4日目:桂池→赤池テントサイト(18.1km)
5日目:赤池→斑尾山→斑尾高原(11.2km)
歩いた時期は10月の中旬。キャンプ場が閉鎖されたところもあり、連日歩行距離が長くなりました。
当初の計画は3泊4日で、4日目に桂池から斑尾山を経由し下山する予定でした。しかし悪天候で赤池テントサイトで延泊し、4泊5日の山行となりました。
苗場山を起点にWest Boundで歩いたのは、直前に東京で用事があったためより東京に近い苗場山からスタートしたかったのと、かつて住んでいて馴染みのある長野をゴールにしたかったという理由です。
雨に翻弄された5日間
全5日のうち半分以上が雨。特に2日目は一日中降り続き、35kmを歩く過酷な1日となりました。
結果的に予定より1日延ばして5日間での完歩。余裕のない行程設定を反省しました。
途中、赤池テントサイトでは荒天のため停滞を決断。予約なしでテントサイトを利用したため、下山後トレイルクラブへ連絡しオンラインで利用料を支払いました。
装備と食糧
荷物の重さは食料、水やガスカートリッジを含めれば12〜13kg。
食料は計画段階での3泊4日分と行動食を用意。途中森宮野原駅周辺で食糧調達可能であることを考え、予備分は持たずに歩きました。
結果として森宮野原駅周辺で食料を買うことなく、少し多めに見積もっていた夕食分でプラス1日分を賄いました。

日毎のトレイルとテントサイトの様子
1日目:道の駅みつまた→苗場山→小赤沢楽養館テントサイト(24.6km)
道の駅みつまた→苗場山
朝5時35分出発の越後湯沢駅出発のバスに乗って道の駅みつまたへ到着。バス代は400円。道の駅にはトイレと自動販売機があります。

道の駅から秡川登山口へは林道を歩いていきます。

道の駅を出発し1時間半ほどで秡川登山口の駐車場へ到着。トイレがありました。

秡川登山口からシャトルバスとリフトが使えるようでしたが、私は歩いて登りました。リフトを使えば約1時間短縮できるようです(期間限定、2,300円)。

和田小屋の登山口に到着。水場がありました。

登山口から登りが続きます。ぬかるみが多く、岩が多く滑りやすいので注意が必要です。

木道があり開けたところを歩きます。

苗場山の八号目・神楽ヶ峰を経由。九号目から登りがきつくなります。

登り切ると台地の上へ。ほぼ平坦な木道を歩きます。

苗場山→小赤沢楽養館テントサイト
苗場山山頂へ。ここが信越トレイルの起点となります。

苗場山山頂ヒュッテは山頂からすぐのところにあります。小屋前のベンチで休憩した後、先へ進みます。

しばらく湿原の間の木道を歩いた後、小赤沢への登山道を行きます。

登山道は結構急で、途中ハシゴ・鎖場などもありました。

途中大瀬の滝へ立ち寄り。なかなか迫力があります。

小赤沢の集落を抜け、小赤沢楽養館テントサイトへ。

小赤沢楽養館テントサイト

アクセス:楽養館となり
水場:あり
トイレ:あり
受入可能テント数:10張
利用期間:6月~10月
利用料金:1,500円/1名
支払方法:オンライン決済
サイトは平坦で広々しています。トイレもすぐそばにあり、楽養館にも近く非常な便利です。
サイトにはウッドチップが敷き詰められていて地面が柔らかく寝る分には快適でしたが、ペグをしっかりと打ち込むのが困難です。非自立型のテントなどはテンションをかけるのに工夫が必要です。
となりの楽養館では温泉を利用できる上に(温泉600円)、売店ではビールなども買うことができます。水場は楽養館入り口外の蛇口を利用できます。

2日目:小赤沢→JR森宮野原駅→野々海高原テントサイト(35.1km)
小赤沢→JR森宮野原駅
楽養館を後にし、小赤沢の集落を歩いていきます。

トレイルは神社の裏手から続いています。

大赤沢を過ぎるとしばらく林道歩きになります。

見倉の集落はひっそりとしていて、雰囲気が良かったです。

林道からつづら折りの歩道を下りて見倉橋を渡ります。

再び上りになり、結東の集落を抜けていきます。

集落を抜けるとブナの森の中を登りが続きます。

台地の上に出てしばらくすると林道と合流。しばらく林道歩きとなります。

牧場の間をしばらく歩きます。この日は雨でしたが、晴れていたら気持ちいいだろうなと想像できる景色でした。

中子の集落を抜けると、畑の縁を歩きます。晴れていればここからの眺めも気持ちよさそうです。

国道に合流し、道の駅信越さかえを通過。道の駅にはトイレや売店などがあります。

JR森宮野原駅→野々海高原テントサイト
JR森宮野原駅周辺にはお店があるので、食料など調達可能です。

集落を抜けると、林道を上っていきます。登山道からは山道に。

野々海高原テントサイトに着く頃にはあたりはすっかり暗くなっていました。
野々海高原テントサイト

アクセス:野々海峠より徒歩30分、深坂峠より徒歩10分
水場:あり(要浄水)
トイレ:あり
受入可能テント数:20張
利用期間:7月上旬~10月下旬
利用料金:1,500円/1名
支払方法:オンライン決済
蛇口が備え付けてありますが、沢の水なので飲用には煮沸または浄水が必要です。サイトには電源がありました。

3日目:野々海高原→関田峠→桂池テントサイト(27.4km)
野々海高原→関田峠
野々海高原テントサイトからは林道歩きが続きます。

野々海峠から山道に。しばらくは緩やかな道が続き、アップダウンが増えます。
伏野峠にはクーラーボックスがあり、トレイルクラブの方々が用意してくれた水がありました。非常に助かります。

ブナの森が非常に美しく、歩いていて気持ちよかったです。

関田峠→桂池テントサイト
関田峠に到着。

鍋倉山、仏ヶ峰登山口を経由し、桂池テントサイトへ。この日もまた日が暮れての到着となりました。
桂池テントサイト

アクセス:トレイル沿線
水場:徒歩5分ほどのところに湧水あり
トイレ:あり
受入可能テント数:5張
利用期間:6月下旬~10月下旬
利用料金:1,500円/1名
支払方法:オンライン決済
芝生のサイトで、テントは設営しやすかったです。サイトにはクーラーボックスがあり、トレイルクラブの方々が水を準備してくれていました。
4日目:桂池→赤池テントサイト(18.1km)
桂池を見ながらのスタート。

トレイル沿いの東屋からは信濃平を一望。

林道を歩いた後、富倉の集落を通過。
再び林道を歩き、ススキに囲まれ気持ちいい。

毛無山を経由し希望湖沿いへ。

沼ノ原湿原を通過。

赤池テントサイト付近に着く頃に雨が降り出しました。予報では雨が激しくなるとのことでこの日は赤池テントサイトを利用。後日トレイルクラブに問い合わせ、利用料を支払いました。
赤池テントサイト

アクセス:赤池駐車場より徒歩5分
水場:駐車場トイレ棟外に水道あり(要浄水)
トイレ:駐車場内にある施設を利用
受入可能テント数:10張
利用期間:6月下旬~10月下旬
利用料金:1,500円/1名
支払方法:オンライン決済
5日目:赤池→斑尾山→斑尾高原(11.2km)
赤池→斑尾山
翌朝は霧の中からスタート。

袴岳山頂を経由し、万坂峠へ。ここからはスキー場を上っていきます。

上り切るとブナの森が広がっていました。

そして斑尾山山頂へ。信越トレイルのゴールです。山頂からの展望は乏しいですが、トレイルを歩き切った感慨深さが込み上げました。

斑尾高原へ下山する途中、斑尾高原と数日かけて歩いてきた山々が見渡せました。

斑尾高原ホテルへ。残念ながらこの日は休館日で温泉には入れませんでした。ホテル前からバスに乗って、飯山駅を目指しました。

歩いて感じた信越トレイルの魅力
信越トレイルの魅力は、華やかな絶景ではなく、静かな森と人の暮らしの近さにあります。
とくに集落の中を抜け、ブナの森へ入るという“人と自然の間”を歩く感覚が印象的でした。
歩く人も少なく、道中はほとんど静寂。ひとりで歩く時間が長いからこそ、自分のペースで自然と向き合えるトレイルです。

歩いてわかった注意点・反省点
紙地図は必携
YAMAPのみで計画・ナビを行いましたが、実際のトレイルルートを正確に辿るのは難しく、計画以上の時間がかかりました。
公式マップを購入し、紙地図でルート確認することを強く推奨します。地図はオフィシャルサイトから購入可能。
日数と宿泊計画に余裕を
テント泊にこだわりすぎると、1日の距離が長くなりがちです。
民宿やヒュッテを組み合わせて、余裕あるスケジュールを立てましょう。
宿泊施設の利用可能時期は注意
信越トレイルの宿泊施設・テントサイトは限られており、利用可能時期や施設の休館日などの事前の確認はした方がいいでしょう。
無人サイト・売店なしに注意
テントサイトは無人で、売店などもありません。
食料やガスなどは必ず事前準備を。特に斑尾〜森宮野原区間は補給が難しいです。
アップダウン多め&夏は高温注意
標高は1000m前後ですが、意外とアップダウンが多く、体力を消耗します。
また、夏は気温が高いため、秋や初夏が歩きやすい季節です。
浄水器は必ず持参
沢水を飲むための浄水器は必携です。「ソーヤーミニ」など軽量モデルが便利でした。
信越トレイルを歩いてみて
5日で歩き切った今振り返ると、もう少し時間をかけて歩けばよかったと感じます。
里山区間は人の暮らし、山の中では静かな森を感じることができ、ただ歩くだけではなく立ち止まって味わうのも面白いなと感じました。
里山の暮らし、森の静けさなど、ただ歩くだけではなく、立ち止まって味わうのも面白いなと感じました。
またトレイルはしっかりと整備されており、トレイルクラブやボランティアの方々の貢献を感じられました。途中クーラーボックスに用意された水も孤独なロングトレイルに優しさを添えてくれました。
もし次に歩くなら、もっとゆっくり、信越の自然と文化を味わいながら進みたいと思います。

まとめ:信越トレイルは「静かに旅する人」にこそおすすめ
信越トレイルは、北アルプスのようなスケールの大きな山歩きとは違い、「人と自然の間」を静かに歩くような道でした。
雨に濡れながらも、ブナの森の香り、里山の集落、テントサイトでの夜の静けさ——そのどれもが忘れがたい旅の記憶です。これから歩く人は、時間に余裕を持ち、自然と向き合うように歩くのがおすすめ。
無理なく、安全に、そして自分のペースで歩く。信越トレイルは、そんな「静かに旅する人」にぴったりのトレイルです。


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