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【ブックレビュー】懐かしい未来 ラダックから学ぶ/ヘレナ・ノーバーグ=ホッジ

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ヤマケイ文庫 増補改訂版 懐かしい未来―ラダックから学ぶ

タイトル:増補改訂版 懐かしい未来 ラダックから学ぶ
著者:ヘレナ・ノーバーグ=ホッジ
監訳:鎌田陽司
出版社:山と渓谷社
発売日:2021/2/3

あらすじ

著者のヘレナ・ノーバーグ=ホッジが1975年以降関わり続けたインド北部のラダックでの経験を元に、ラダックの伝統的暮らしや近代化による変化の様子の紹介、グローバリゼーションによる問題の指摘、ラダックをモデルにしたローカリゼーションの提案がされています。

読んだ感想

ラダックからグロバリゼーションの問題を問う

著者はラダック語ー英語辞書の作成も行うなどラダック語にも精通しており、ただの旅行者では味わえないラダックの暮らしや変化などを知ることができます。実際に著者自身が見て体感したラダックの人々の暮らしや変化の描写は読んでいてとても興味深かったです。

本の大半をラダックだけでない地球全体で起きているグローバリゼーションの問題が語られているのですが、こちらもわかりやすく説明されていました。グローバリゼーションを学ぶにもおすすめの本です。

「成熟した」ラダック人の精神

自然と共生した暮らしであればかつての日本でもあったのですが、私が特に興味を持ったのはラダック人の「心のあり方」です。チベット仏教に根差したラダック人の精神はまさに悟りを開いたかのようにみえます。地域や家族という小さな社会で互いに助け合い強いつながりは一見「依存的」にも見えます。しかし実は個人の精神においては全く「依存的」ではなくそれぞれアイデンティーが確立しているというのが驚きでした。

赤ちゃんのいたずらにも、他人からの罵倒にも「それがどうした」と言わんばかりに反応せずほとんど感情的にならない姿は、物質社会で人の目を気にし、人に苛立ち、人と比べて落ち込む「他者依存」から抜け出せない我々(私のことですが)とは正反対の精神ではなでしょうか。やはり人との強いつながりというのが自己の確立には必要なんだと実感し、まさにラダックの伝統的地域社会はその模範的な姿なのだと思いました。これがまさに同じチベット文化圏であるブータンに見られるような「高い幸福度」の鍵なんだと思います。

私が見たラダック

私自身2019年にインド旅行でラダックに訪れました。残念ながらこの時はこの本の存在は知りませんでした。私が訪れたラダックは近代化が進んでだいぶ経った姿だとは思います。それでもチベット仏教に根差した人々の暮らしは垣間見ることができました。ラダックの中心都市・レーは観光客がごった返し、観光客向けの店が立ち並んでいましたが、いくつか訪れた周辺の村々は数百年は変わらないような佇まいがありました。

ある村の僧院を訪れた時、ちょうど村人が僧院の掃除を行なっていました。私たち外国人が見学していても気にする様子もなく作業を行なっていました(ガイドブックにも載っているので観光客慣れしているのかもしれません)。

ちょうどお昼時にひとりの村人に「ご飯あるけど食べるか?」と聞かれ快くいただきました。質素なカレーでしたがお腹が空いていたので非常にありがたかったです。しかし私たちはタダでご飯をいただいたことに気兼ねして、僧院を見学させてくれたことと合わせて少しばかりの寄付を行いました。どこかで自分が外国人であることや、「貧しい彼ら」と見ていたのかもしれません。しかしこの本で言われれているマインドを村人が持っていたなら、彼らは私たちにご飯を分け与えることに何も思っていたかっただろうと今では思います。

Ancient Futures

この本の原題は「Ancient Futures」となっており、単に「古い未来」とも訳せるのですが「懐かしい未来」としたのは少しニュアンスが変わってきます。私はこの訳はとてもいい訳だと思っています。

不思議なものでネパールやラダックなどのチベット文化圏を旅していると「懐かしさ」を覚えます。それは単に彼らの顔立ちが日本人に似ているからだとか仏教だからだとかだけではない気がします。かつての暮らしや人々のあり方が遺伝子に刻まれているのかもしれません。


ヤマケイ文庫 増補改訂版 懐かしい未来―ラダックから学ぶ

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