2021年9月初旬、北海道の屋根・大雪山を、十勝岳温泉から層雲峡まで7日間かけて縦走しました。
本州や北アルプスとは違うスケール感と、人の少ないワイルドな自然はまるで海外トレイルのよう。
この記事では実際の行程・注意点・テント泊での体験をまとめます。
大雪山縦走の概要
ルート・距離・日数
DAY1:十勝岳温泉→富良野岳→上ホロカメットク避難小屋(泊)
DAY2:上ホロカメットク避難小屋→十勝岳→双子池キャンプ指定地(泊)
DAY3:双子池キャンプ指定地→南沼キャンプ指定地(泊)⇄トムラウシ山
DAY4:南沼キャンプ指定地→トムラウシ山→化雲岳→忠別岳避難小屋(泊)
DAY5:忠別岳避難小屋→忠別岳→白雲岳避難小屋(泊)
DAY6:白雲岳避難小屋→旭岳→黒岳野営指定地(泊)
DAY7:黒岳野営指定地→黒岳→層雲峡
距離:88.7km
上り:6083m/下り:6635m

今回は 十勝岳温泉から層雲峡まで、全泊ソロテント泊 で縦走しました。
行程としては6日で歩き切れる距離でしたが、せっかくならできるだけ長く大自然に身を置きたい――そう思い、6日目はゴール直前の黒岳野営指定地にあえてもう一泊しました。
食料・水・トイレ事情
ルート上の山小屋はすべて避難小屋のため、食料はすべて自分で持参する必要があります。途中で補給できる場所はありません。
水は雪渓の雪解け水や水たまりを利用するしかなく、私は浄水器「ソーヤーミニ」を携帯しました(これは必須装備といえます)。
また、携帯トイレも持参しました。大雪山のキャンプ地(野営指定地)にはトイレがない場所が多く、携帯トイレの使用が推奨されています。特にトムラウシ山直下の南沼野営指定地ではトイレ問題が深刻で、生態系に悪影響を与えているため仮設トイレしかなく、携帯トイレは必携と考えていいでしょう。
地図・参考リンク
山と高原地図では「大雪山」一つで全域カバーしています。
山と高原地図 大雪山 旭岳・トムラウシ山・十勝岳・幌尻岳 2025 [ 昭文社 地図 編集部 ]
大雪山の避難小屋やキャンプ場の詳細はこちらで確認できます。
避難小屋・キャンプ場・野営場 | 大雪山国立公園連絡協議会
http://www.daisetsuzan.or.jp/trail-news/hinan/
大雪山縦走ならではの注意点
- 食料補給はできない
北アルプスのように山小屋で食事や食材が買える場所はありません(北部の一部の小屋を除く)。食料はすべて持ち込みが前提です。 - エスケープルートが極めて少ない
特に美瑛富士〜トムラウシ間や、五色ヶ原〜白雲岳避難小屋の区間にはエスケープルートがありません。天候の急変に備え、無理のない計画が求められます。 - 水場が乏しい
水場は限られており、あっても雪解け水や小さな水たまりが中心。浄水器や煮沸での対策は必須です(ソーヤーミニは非常に使いやすくおすすめ)。 - ヒグマの生息域である
大雪山はヒグマのすみか。歩行中は音を出したり、周囲をよく確認したりして警戒が必要です。また、食料の匂いを放置するとヒグマを引き寄せてしまうため管理も重要です。
大雪山の魅力は「人が少なく、ワイルドな山歩きができる」こと。その反面、補給手段がなく、天候リスクやヒグマの存在など、北アルプス以上に厳しい環境でもあります。十分な準備と注意を重ねたうえで、この広大な山域を楽しみましょう。
アクセス・おすすめ宿
スタート|十勝岳温泉
アクセス|富良野→十勝岳温泉
上富良野駅から富良野岳の登山口である十勝岳温泉凌雲閣までのバスでアクセス可能です。
上富良野町営バス路線案内
https://www.town.kamifurano.hokkaido.jp/index.php?id=1522
バスの終点である十勝岳温泉凌雲閣には売店もあり(もちろん温泉も)、縦走前の最後の補給地となります。
富良野のおすすめホステル|ホステルトマール
富良野での宿泊はホステルトマールがおすすめ。設備が綺麗で、ドミトリーでもベッドにカーテンが設置してあるのでプライベートも確保できます。
HOSTEL TOMAR ホステルトマール
https://tomar.furano.jp/
ゴール|層雲峡
アクセス|層雲峡・黒岳
層雲峡からは旭川までバスが出ています。
黒岳へは層雲峡からロープウェイでアクセス可能。
層雲峡のおすすめホステル|層雲峡ホステル
私は今回は泊まれませんでしたが、層雲峡に泊まる機会があれば泊まりたかった層雲峡ホステル。評判もいいのでおすすめです。
縦走記録|DAY1〜7
DAY1:十勝岳温泉→富良野岳→上ホロカメットク避難小屋(泊)
いよいよ大雪山縦走のスタート。7日間の冒険の幕開けです。

天気予報では昼から晴れるはずでしたが、出発して間もなく雨がぱらつき、稜線に出た途端に強風と土砂降り。視界は真っ白で「引き返すか…?」と一瞬迷いました。
それでも歩みを進め、富良野岳へ。山頂では相変わらず真っ白でしたが、しばらく待つと雲間から青空がのぞき、晴れることを祈って先に進むことにしました。

雨は収まるものの視界はなし。しかし突然視界が開け、十勝岳の姿が!突然開ける目の前に広がる広大な景色に「これぞ北海道の山だ」と胸が熱くなります。

上ホロカメットク避難小屋に着く頃にはすっかり晴れていましたが、小屋の中もテント場も混雑。なんとかスペースを確保してテントを設営。

さらに誤算だったのは水場。頼みの雪渓はすでに消えており水の補給はできず、持参分を大事に使うしかありませんでした。
夜は想像以上に冷え込み、寝袋に包まっても震えるほど。9月の大雪山の厳しさを、初日から思い知らされました。
DAY2:上ホロカメットク避難小屋→十勝岳→双子池キャンプ指定地(泊)
翌朝は一転して快晴。稜線歩きは爽快で、火山の荒々しい十勝岳へ向かいます。

二度目の十勝岳ですが、以前は自転車旅のついでに仲間と登っただけで、北海道の山とこんなに本格的に向き合うとは思いもせず。

黒い砂礫が広がる、植生の乏しい異世界のような景色に圧倒されました。

その後はガスが広がり、美瑛岳・美瑛富士はパス。美瑛富士避難小屋で水を確保し(水たまり・濾過必須)、さらに進みます。

オプタテシケ山からは眺望なし。やがて眼下に池が見え、「あれが双子池だからキャンプ指定地もそばだ」と思い込んで下るも、池にはなかなか辿り着かず…。GPSを確認するとキャンプ指定地を通り過ぎていたことに気づき、慌てて引き返しました。
双子池キャンプ指定地に着くと看板もなく、ただ平らな地面と水たまりが点在するだけ。他の登山者はおらず、あたりは原野が広がるばかり。
「これは熊が出てもおかしくない…」と背筋が冷えました。憧れていたワイルドなキャンプ地のはずなのに、夕食も就寝も常にビクビク。北海道の山に挑んでいるという実感と恐怖が入り混じった夜でした。

DAY3:双子池キャンプ指定地→南沼キャンプ指定地(泊)⇄トムラウシ山
不安な一夜を越え、朝の光を浴びると一気に気持ちが軽くなりました。「明るい」というだけでこんなに安心できるのかと実感。テントをたたみ、今日の核心部へ。

この区間は距離が長くエスケープもなく、登山者も少ない。常にヒグマを意識しながらの行動です。しかし天気が良かったおかげで、ヒグマへの恐怖も和らぎ景色を楽しむことができました。

ヒグマを警戒しながら慎重に歩を進めると、遠くに猫の耳のような山影が浮かびました。魔王の城のようなトムラウシ山です。魔王の城(トムラウシ)を目指し魔物(ヒグマ)の住む森を歩く勇者にでもなった気持ちでした。

トムラウシに近づくにつれガスに覆われてきました。やがて岩が増え、南沼キャンプ指定地に到着。携帯トイレブースが数ヶ所、テントスペースも十分にあります。何より他にも登山者がいて心底ほっとしました。
設営を終えるとガスが切れ、目の前にトムラウシが現れる――こんなに近いのかと驚き、急いで山頂を目指しましたが、着いた頃には再び雲の中。自然の気まぐれに翻弄される一日でした。

南沼は岩と霧に包まれた幻想的な場所。小さな沢で水を補給しながら(浄水器必須)、まるで別世界にキャンプしているような不思議な感覚に浸りました。

DAY4:南沼キャンプ指定地→トムラウシ山→化雲岳→忠別岳避難小屋(泊)
夜明け前、まだ暗い中出発。昨日歩いた道を歩き山頂を目指すと、トムラウシ山でご来光に出会えました。大雪山の全容が一望でき、自分が歩いてきた富良野岳から、これから向かう朝日岳まで縦走路がつながって見えました。胸が震える瞬間でした。

テントを撤収し、北沼を経て先へ。

岩場のゴツゴツした風景に振り返ると、鋭いトムラウシの姿があり、なぜかタスマニアのクレイドルマウンテンを思い出しました。日本の山なのに、まるで海外トレイルを歩いているような感覚。

天沼の透き通る青さにも目を奪われます。ニュージーランドを旅していた頃の記憶が蘇り、異国を彷徨うような錯覚すら覚えました。

やがてヒサゴ沼が現れます。沼畔には避難小屋とキャンプ地。静かな湖畔にテントを張るのも魅力的ですが、今回は通過。「次に来るときはここで泊まりたい」と心に刻みました。

遠くに突き出た奇妙な岩の塊――化雲岳。近づくにつれ、不気味な存在感を増し、私には魔女の館のように見えました(笑)。

化雲岳の山頂ではカラスがじっと睨みつけ、さらに「魔女の館」の妄想を膨らませます。

その後、忠別岳避難小屋へ到着。小さな野営地ですが、周囲は高山植物が咲き乱れ、すぐそばの雪渓から水を補給できました。静かで美しいキャンプ地に、心がほどけていきました。

DAY5:忠別岳避難小屋→忠別岳→白雲岳避難小屋(泊)
朝の光の中、忠別岳へ。

忠別岳山頂からは旭岳の姿が堂々と広がっていました。

なだらかな稜線を歩いていると、目の前に大地が果てしなく続くような景色が現れます。行ったこともないのに「アラスカって、こんな風景なんだろうか」と胸の奥で想像が広がりました。少なくとも、他の日本の山では味わえないスケール感でした。

やがて、赤い屋根が目を引く白雲岳避難小屋が見えてきます。

白雲岳避難小屋は小屋番が常駐していて、協力金1000円を支払うとオリジナルの手ぬぐいをいただけました。テント場は小屋のすぐ隣、広々とした平地で快適。水はすぐ近くの沢を利用できます。

設営後は白雲岳〜緑岳まで足をのばして散策。白雲岳周辺の斜面は紅葉が始まり、鮮やかな色彩に染まっていました。

DAY6:白雲岳避難小屋→旭岳→黒岳野営指定地(泊)
いよいよ大雪山の最高峰、旭岳を目指す日。御鉢平を眼下に眺めながら進むと、火山特有の地形に圧倒されます。

やがて旭岳の姿が間近に迫ります。砂地の道は足を取られて歩きにくいですが、それもまた火山らしい。

旭岳山頂に着くと多くの登山者で賑わっており、前回の自転車旅で訪れた時を思い出しました。

山頂を後にし、再び御鉢へ。途中、北鎮岳に寄り道して黒岳野営指定地へと下ります。ここで利用料500円を支払いテント泊。層雲峡はもう目の前ですが、「もう少し山の中にいたい」との思いから、あえて最後の一泊を選びました。

DAY7:黒岳野営指定地→黒岳→層雲峡
最終日、まだ暗いうちに起き出し、近くの桂月岳へ。山頂からご来光と雲海を拝み、7日間の旅の終わりを実感しました。

テントを撤収し黒岳へ登り返すと、大雪の山々が一望できます。

名残惜しさを胸に、いよいよ下山開始。ロープウェイは使わず、自分の足で層雲峡まで下り切りました。
そしてゴールの層雲峡へ。7日間の大縦走は終わり。北の大地の自然の厳しさとワイルドさ、そして圧倒的な素晴らしさも――すべてを感じ、ようやくゴールにたどり着きました。

登山口の層雲峡ビジターセンターでは使用済みの携帯トイレを回収してくれて助かります。
そして最後は「黒岳の湯」へ直行。熱い湯に浸かると、これまでの疲労が一気に溶けていきました。
まとめ|大雪山縦走は日本離れしたワイルドなトレイル
大雪山縦走は、北アルプスでは味わえないワイルドさと静けさが魅力です。
特にトムラウシ〜白雲岳間の景観は日本離れした美しさで、一部区間だけでも訪れる価値があります。
ただし、食糧・水・ヒグマ対策は必須。十分な準備を整えて、北海道の大自然を楽しんでください。
大雪山を歩くなら幻の百名山・ニペソツ山もおすすめ。
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